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このあまりの変貌ぶりに、シュバルツは半分呆れてしまった。ただ、10年も顔を会わせ仕事をしているといくら階級差があろうが意味を失っていくものだ。
「うーん…なぁメリッサ、『イカロス』の話をしっているか?」
「『イカロス』って、あの蝋の羽で飛んで、高く飛びすぎて蝋が溶け、墜落した男のこと?そんな大昔の物語が何?」
博識だなぁと、シュバルツは素直に驚いた。普段からそうなのだが、メリッサは頭がいいと言うか、知識が豊富なのだ。こんな旧西暦時代の事まで知っている人間はそうは居ないだろう。
「そう。その名前にしようと思うんだ」
シュバルツは自分の考えを、意見を率直にのべた。しかし、
「なっ…何言ってるの!?縁起悪いわ!乗組員の中にはそういう事を気にする人もいるんだから!」
「つまり…それは君の事かな?」
「うっ!」と、明らかにバツの悪そうな顔をすると、
「一般論としてです!」
と、苦し紛れの声を上げた。
この反応は10年一緒にやって来たシュバルツにしても意外だった。
シュバルツはメリッサの事を肝の座った女と思い込んできた。ジンクスや噂なんかに揺るがされることの無い人と思って来た。だからこそこの反応は彼女の新たな一面を見た形となった。
「それじゃあ示しがつかないんじゃないか?それに、俺は『イカロス』という名前にそんな意味を込めたわけじゃないよ」
「では、どういう意味で?」
「蝋の羽で空を飛べと言われて、メリッサは飛べるか?」
呆気に取られた表情で、メリッサは目の前の男を見た。
「何を言い出すんです?急に」
「いいから答える」
シュバルツの意図が全く理解できないので、彼女は正直に
「無理です。そもそもあれは飛ぶと言うより落下です」
そう言った。
それを聞いて、シュバルツは一頻り笑うと俺も無理だと言った。
「だが、考えてみろ。イカロスという男はそれをやった。結局蝋が溶け、墜ちてしまうけど…俺はその飛び出した勇気を買って、イカロスの名前をつけたんだ」
と、まあ色々ゴタクを並べたが、結局名前なんて気にしないと言うことで決着が着いた。
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