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「それで、準備は出来てるの?」
そう言われ、今度はシュバルツがポカ~ンとした表情でメリッサを見返す。準備?何のことだろうか?
それを察してか、メリッサは軽くため息をついた。
「受艦式の準備よ。現場の方は私がしてたけど、貴方の準備があるでしょ?」
受艦式とは読んで字のごとく、新造艦の受け渡し式典である。
豪勢に聞こえなくもないが、中身は簡単な式典だ。ただ単に部署の最高責任者が五分ほどの軽い話をするだけだが…これが非常に退屈なのだ。五分という時間を十倍引き延ばすような感覚を得る。
しかし、その退屈な受艦式は明日のはずだ。
「それは明日じゃなかったか?」
今度は呆れ顔でシュバルツを見てくる。
「……メール見てないんですか?」
そう言われて、シュバルツは自分のディスプレイのメール欄を触る。
シャンと音を立て、目の前にメールボックスが出現する。そこには一番上にNEWと光るマークのついたメールがあった。
「読んでみて下さい」
わざと敬語で丁寧にメリッサが言うが、見事に殺気を忍ばせている。
「えっと…『受艦式のお知らせ。明後日に予定しておりました受艦式ですが、急遽明日に変更となりました。皆様には大変ご負担がかかるかと思いますが、どうかよろしくお願いします』…」
思わず音読した後にシュバルツはメリッサの顔を見た。ちなみにこのメールの日付は昨日である。
「つまり受艦式は今日あると?」
「その通り。貴方の仕事が多いのは知ってるわ。でも、メールの確認はして欲しいわね」
嫌味たらしく言われて少しカチンと来るが、悪いのは全面的にシュバルツだ。ここで言い返しても意味は無い。
再びシャンと音を立ててディスプレイが閉じられる。
「すまなかった。そこまで気がまわらなかったんだ」
「それもわかってる。次回からは気を付けて」
シュバルツは頷いた。
「それにしても、あなた艦内と艦外で違いすぎない?艦内のあなたは他者を寄せ付けない力があるのに、それ以外の場所だと並よね」
しみじみと感慨深くメリッサはそう言った。こんなこと、普通の立場関係なら侮辱罪で下手したら銃殺刑になってもおかしくはないのだ。この二人だからこそ出来る会話だ。
「そんなに抜けてるか?艦橋にいる時と差は無いと思うけど」
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