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「違いますよ。10年前にアンビエントから逃げ切ってみせた人間と同一人物とは思えない」
そう言って、シュバルツを茶化してみる。シュバルツもその事は分かっているし、メリッサのイメージがあの時の自分だとするなら、確かに今の自分は牙を抜かれた猛獣だろう。
「あの時は必死だったからさ。10年安全な事務局にいるんだから、毒気も抜けてるさ」
そう言い返してメリッサの茶化しをスルーする。
だが、同時にこれから10年ぶりの戦いへとのぞむ事に対する不安も感じていた。
だいたい10年も戦場を離れた人間が再び現場に戻るなど、自殺しに行くのと大して差は無い。ほぼ同じ事だ。
これがシュバルツ一人ならいいのだろうが、来れに数十人のクルーと共に行くのだ。艦長であるシュバルツの采配一つで生死をわかつ訳だから、その責任は重大だ。
オマケに彼等の敵は、相変わらず不明な点だらけのアンビエントである。いくら唯一艦ごと生き残ったことがあるとは言え、いくらこれから乗るイカロスが設計上最強の艦とは言え、今のシュバルツに彼等を確実に死なさずに帰って来るのは、無理な話だろう。
だが、シュバルツがそのような仕草を見せてしまえば余計にクルーの不安をあおってしまう。それはメリッサも同じだ。
だからこそ、彼は至って普通にそう答えたのだ。
「さてと、そろそろ時間じゃないのかな?」
時計を見て、シュバルツはそう言った。確かにそろそろ移動しないと開場に間に合わないだろう。
「そうですね。では、私は外で待ってますから正装して来てください」
これから部下の前に行くとことなり、急に敬語になったメリッサを見て、シュバルツは少し口を綻ばせた。
「なんなら見ていてもいいんだぞ?着替え」
「バカ。セクハラじゃない」
顔を多少赤らめて、メリッサは部屋を出て行った。
「相変わらずウブなやつだな。もう三十路越えていると言うのに」
そう言って、シュバルツはタンス内になる艦長服を着用した。
鏡を見て、多少乱れていた髪を整え、ヒゲが生えてないか確認。これまた剃り残しがあったため、剃り直す。大体五分程度かかり、身支度を終えた。まあまあの時間だろう。
外に出るとメリッサを従え、ドッグへと向かった。
同時刻・銀河連合軍最高幹部会議室
「では、あの女は新造艦を受け渡しを拒否したのだな?」
「はい。あれはアンビエント対策であり、デルトゥーク戦に使うべき艦では無い、と」
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