沈んだ5月

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「じゃあさっ、夏海! 真鍋拓海に聞いてみなよ」 何が『じゃあ』なのかはよく分からなかったが、ともかくひとみはそう言った。 「何を?」 と、あたしが聞くと、ひとみは、なんで分からないのとでも言いたげな煩わしそうな顔をしながら 「だからーっ、真鍋拓海がキスした本意を聞くに決まってんでしょ」 と言った。 あたしはひとみの言葉に大きく首を横に振った。 「無理、無理! そんなの聞けるわけないじゃん!」 「そう。じゃあ今のような宙ぶらりん状態のままで、なつはいいんだ?」 う…… そう詰まったときに、授業開始のチャイムが鳴り 「うわ、始まっちゃった」 とひとみがきれいな顔をゆがませると、先生が入ってきて、あたしたちは席に着かざるをえなかった。
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