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  左手にドロドロとした海、正面に灰色のコンクリートを見つめれば自然とため息が漏れる。 無宗教主義者のレンでも、厄日というものを考えたくなった。 いやはや。タイミングというのは大事なモノである。 本日幾度目のため息を吐いて誰にでもなくいちゃもんをつけていると、少し離れた所から怒鳴り声が聞こえてきた。 「このアマぁ、舐めんなよ!」 声の主は、大層ご立腹の様子。 太い声には呆れと嫌悪を抱いたが、コレは確実に女絡み。 レンは一人、小躍りをした。 「男としては助けねーとな」 言っている裏にあるのは正義感ではなくて、ただの闘争本能。 女に手を出す阿呆には容赦は要らない。 レンが16年間と少しを生きてきて、脳内に刻み込まれてしまった考えである。 まぁ、正直な処。 乱闘騒ぎは嫌いではない。 彼は意気揚々と声のする方に足を向け、走り出した。 この行動でレンとあいつが出会うことになるというのは――、 今は誰も知る由がない。  
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