二 幕開け

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 吉倉から説明を聞いた神原は、身体を石のように硬直させてしまった。わなわな口を震わせて、同じように震える指を彼らに向けていた。「せ、先輩?彼らってまさか・・・・・・・・・」 「勘がいいな神原。そう、彼らはかつて『足利四天王』と呼ばれた一族の末裔だ」 「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」  神原の心の底からの叫びは、平日昼間の時間では騒音以外なにものでもない。上司である吉倉は彼を黙らせる為に鳩尾に右拳をめり込ませた。  徳篤が寄越したこの四人の家は、代々この国を護ってきた一族で、先祖に三国志の英雄を持つ大家である。そして、彼ら四家は常人にはない『特殊能力』を持っている。  進藤家は蜀の将軍趙雲子龍を先祖に持ち、『宿龍』なる異能を身体の中に宿し、代々の人間は炎を操る能力を持っている。  佐々木家は蜀の初代皇帝劉備玄徳を祖に持ち、代々の人間は風を操る能力を持つと言われている。  後藤家は少し特殊で、先祖は呉の大都督周瑜公謹であるが、平安朝の頃に有名な大陰陽師安倍晴明の娘と結婚したことにより土御門流陰陽術を継承、これにより代々の人間は風と陰陽術を使うことができるようになった。  神戸家は魏の名軍師司馬懿仲達を祖とし、代々の人間は炎を操る能力を有している。  そう吉倉は徳篤から以前聞いたことがあった。  さて、呻き声をあげて踞(うずくま)っていた神原が、鳩尾を押さえながらゆらゆら立ち上がり吉倉に自分が抱いた疑問をぶつけた。 「せ、先輩。進藤の龍って男しか宿らないって聞いてますけど」 「あら、最近はそうでもないのよ?」  突然神原の横から現れた女の顔を見て、彼は驚きのあまりうわっと叫んで尻餅をついてしまった。 「そんなに驚くこともないでしょうに?」  言葉にどこか上品さを感じるが、その顔は楽しんでいるように見える。赤みのある髪に不釣りあいのように澄んだ蒼き瞳は清楚な雰囲気を彼女に纏わせている。 「もう澪ちゃん。人驚かせるの止めなよ。神原さんビックリして頭パニクってるじゃん」 「んふふ。私の唯一の楽しみ、早々止められないわ」 「・・・・・・・・・・・・」  二人の会話を呆然と見ていた神原に気づいた澪なる女性は、微笑して耳にかかるその長い髪を掻き上げ名を名乗った。 「私は澪龍と申します。こちらの瑞穂の『宿龍』をやらせていただいてますわ」
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