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夏真っ盛りのこの時期にあって、この地は何故か快適に過ごせる温度であることに一行は不気味さを感じた。暫く前まで人が住んでいたとは思えないくらい荒れていて、道など、道を感じさせないほど様々な産廃物が転がり、アスファルトは亀裂が入っていたりと凄まじいものだった。
「こんなに荒れてたか?」
吉倉が顎に手をやり道を進んでいると、耳元で男声の囁きが聞こえてきた。
『つけられているようだ』
吉倉は顔は真っ直ぐ進行方向を向いていて、眼だけをその声の方に向けた。
「そのようだな。ここで迎えるか?」
彼に囁いたのは、嘉美の式神・藤原秀郷(ひでさと)、通称『俵藤太(たわらとうた)』。その昔、貧困に苦しむ関東の農民の為に朝廷に反旗を翻した逆臣・平将門を討ち取った一人であり、後(のち)に現れる僧西行の祖父である。
鎧姿が似合う彼はそれを聞くや、そのことについて主に聞きに行った。
「教経(のりつね)さん、いるかい?」
吉倉は小声で彼女のもう一人の式神の名を呼んだ。
『ここにいるぜ?』
秀郷と同じような鎧に身を包んだ男が彼の前に現れた。
彼は平教経(たいらののりつね)といい源平合戦───治承・寿永の乱の時の平家方の将軍で、源氏方の司令官源九郎義経を壇の浦で八艘飛びをさせてまで追い詰めた彼のライバルである猛将。
「神原を守ってくれないか?あいつにもそろそろ決めてもらわないとな。〝危険な仕事に対する決意〟って奴を」
承知と教経は瞬時にその姿を消した。すぐに彼は神原を呼び、耳元でこう囁いた。
「これから一悶着あるが、決して眼を逸らすなよ?」
神原には吉倉の言っていた意味が分からなかったが、多分あまり良いことではないことは分かった。
その瞬間であった。数回の乾いた音が響き渡ると同時に、嘉美が陰陽術で放たれた弾丸を全て防いだ。
「なっ………」
「随分無粋なご登場で」
呆気にとられる神原の横で、嘉美が優雅な口調で突然眼の前に現れた襲撃者共に歩微笑む。見れば、他の三人も臨戦態勢に入っているではないか。
ただ事ではない。神原の第六感がそう告げていた。
「一体誰の差し金かしら?」
襲撃者共は口の代わりに銃撃で返答する。全身黒ずくめの襲撃者達は、彼女の問いに答える気は毛頭無いらしい。
「殺気ビンビンだね」
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