二 幕開け

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「瑞穂、仕事はしっかりしろよ?」  季達(ときたつ)が言えばアンタもねと瑞穂も言い返す。  殺伐とした空気が辺りを包み込む。静寂がこの時に至っては逆に不気味さを増している。  先に動いたのは襲撃者達である。手にしていた武器を代え、二人がマシンガンを乱れ撃ち、その他の者が短剣を武器にし実に見事な身のこなしで吉倉達に襲いかかった。  ひいと怯える神原を、半透明の式神平教経が守護していたがそんな彼に神原は奇声を上げて驚く。 (まぁ生を見たらそうなるわな) 吉倉はそう思った。  一方、マシンガンの乱れ撃ちにあい、それらに集中していて身動きとれない嘉美に眼をつけた襲撃者の一人が彼女に襲いかかった。 『残念だが、彼女(よしみ)は殺らせないぜ』  そんな声と共にその襲撃者は胴を真っ二つに裂かれ絶命した。  彼を斬った者は秀郷・教経同様に鎧に身を包んだ美男子で、彼の持つ大太刀が煌びやかな輝きを放っていた。 「ナイス、ツネさん」  使役者の正徳が親指を立てれば、その武士も親指を立てた。  彼の名は源九郎判官義経(みなもとのくろうほうがんよしつね)。かの源平合戦で源氏を勝利に導いた立役者であり、後に源氏の棟梁でもある兄頼朝の差し向けた軍により、衣川館で殺された悲劇のヒーローでもある。  陰陽師一族でない正徳が彼を使役できる理由は、彼の妻嘉美から教わったからである。彼が嘉美に頼み込んでのことであった。 「なかなかの使い手だな」  吉倉も拳銃で応戦する。神原は驚愕のあまり何もできずにいた。 「爆流水破」  澪龍の手の平から膨大な量の水龍が飛び出し、襲撃者共を喰らい尽くした。 「片付いたわね」 「そうだな。あー肩凝った」  季達(ときたつ)がダルそうに肩を回し、瑞穂は欠伸をしながら背伸びをする。  茫然自失していた神原の頬を冷たい風が撫で、吉倉が彼を見下ろしている。「神原。今から二つ提示する。どちらか選べ」  その口調は、いつもの彼からは想像できないくらい冷ややかであった。彼の両隣をあの四人が固めていた。 「一つ。今から東京へ帰り二度とこの事件に関与しない。勿論、俺達への接触も無しだ」
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