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そこで一呼吸おき、吉倉は残りの選択肢を提示する。
「二つ。これまで通り俺達と一緒にこの一連の事件を調べていく。その時は、さっきのような事態が日常となる。それでも良いか?」
神原に与えられた選択肢は二つ。どちらを選ぶにしても吉倉は責めないと言った。だが、神原の答えは既に固まっていた。
「せんぱ~い?そんなん愚問っスよ愚問」
彼は平常の彼に戻っていて、いつものおちゃらけ風な口調で己の意思を告げた。
「さっきはちょっとビビったけど、一度関わったからには最後までやりますよ?俺の性格、知ってるっしょ?」
彼の回答を聞いた吉倉は途端額を押さえて笑い出した。彼の笑いが理解できない四人の若者は困惑していた。
「流石神原元警視の息子。聞いた俺がバカだった」
彼は神原の背中を力強く叩きまくった。痛いという神原の叫びには耳も貸さない。
「よし、そうと決まればさっさと行くぞ神原ぁ!」
先に進んでいく吉倉のあとを、慌てて神原は追いかけていく。そんな彼らを見ていた四人は、苦笑いしながら村へ向かった。
綿ヶ貫村はほぼ当時のまま残されていた。まだ日が経ってないから当たり前と思うだろうが、彼らの感覚は違っていた。
「何か違う………」
入り口に立っていた彼らはそう感じだ。眼の前に広がるのは確かに事件当初の面影を残しているが、どうも〝雰囲気〟が前と違っているように思える。それが何かは分からないが。
「とにかく入ろう」
村に入った。あまり良好ではない土道を歩きながら、六人は周りを見回していた。
ほんのつい二・三日しか経っていないのに、この村は大分朽ち果ててきていた。空気も辺境の地にあるわりに美味くない。
「ねぇ先輩?あれ、神社じゃないっスか?」
不意に神原がある方角を指差しながら彼の肩を突(つつ)いた。
吉倉は歩を止め彼の差す方向に眼を凝らした。確かにそこには色褪せた朱色の鳥居があり、その奥に本殿のような建物が見えた。
吉倉はそこへ向かって歩き出し、それに神原や瑞穂達が続いた。舗装されていない道で、それに伸びたい放題伸びた草木が手伝って進むのに多大な苦労を強いられた。
ようやくの思いで社に辿り着いた吉倉と神原は、その社を見て唖然とした。
似ている。濱癘(はまらい)村にあったあの社に。
何と無しに吉倉は鳥居の額束(がくつか)を見上げて、思わず失笑した。
「おいおい、マジかよこりゃ………」
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