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釣られて見た神原の反応は驚愕を超えた顔で「そんなバカな」と声に出していた。
『御八代神社』
そう額束には書かれていた。
神原は吉倉に事件当時に気づかなかったのかと問い詰めた。神原はその当時別件の捜査で一時的に抜けていたが、吉倉はその捜査に参加していたのだ。
「いや……気づかなかった」
つい数日前の記憶を穿(ほじく)り返してみたものの、全くここに関するものはなかった。それでいて、この綿ヶ貫(わたがぬき)村の御八代神社は濱癘(はまらい)村にあった御八代神社と造りが瓜二つである。
「一体どうなってんだ??」
悩んでいては仕方ない。吉倉は正徳にこれを写真に収めておくよう言い含め、彼は役場があった場所へ急いだ。どうも胸騒ぎがしてならないのだ。
急いでいた吉倉であったが、突然その足を止めある一点をじっと見ていた。
追いついた神原らは訝しげにしていたが、吉倉は狂ったように高らかに笑い出した。
「えっ、ちょ、先輩!!」
彼が壊れたと思った神原はおろおろしながらどうすればいいか分からなかったが、やがてその笑いが収まった吉倉は今し方自分が見ていた方向を指差した。
「こいつを見てみな」
何だ何だと彼らが興味津々で寄ってきてその方向を見た神原は、本日二度目の驚愕した顔で唸った。
『四宝院』
その先にあった和洋建築の家の表札に書かれていたかすれ文字は、先日行った濱癘(はまらい)村の『四家』の一つであり、吉倉と一緒に見たあの四宝院に間違いない。最初こそたまたま同姓であっただけだと思ったが眼線を下げた所に書かれていた人物を見て、蒲原の考えは見事に打ち砕かれた。
『華奈未(かなみ)』
正徳達も大概の事は徳篤の話や資料から知っていたが、これには驚きを隠せないでいた。こんな偶然がはたしてあるのだろうか。
だがこれもたまたま同姓同名の人物かもしれない。しかし彼らにはそうは考えられなかった。考えたくなかった。
気持ちが落ち着いてきた吉倉は当時の事をもう一度思い出してみた。だがこんな家を見つけた記憶はない。こことは違うルートで来た、ここまで捜査してなかった、などと思い返すも、あの時はこの村をアリの子一つ逃さないほど隈なく捜索したはずであり、万一見つけていたなら何らかの報告が挙がっているはずだ。
「何か裏がありそうね」
澪龍がそれを見ながらぽっつり呟いた。同調するように他の者達は首肯する。
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