一 全滅の村

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    「せんぱーい。まだっすかー?」  人気のない山道に車を走らせている若い男神原(かんばら)慶三が後ろの中年の男に言った。 「もうちょっとだ」  吉倉暎柾(あきまさ)が部下に告げた。  この二人、刑事である。神原が巡査長、吉倉が警部である。二人は安徳の父でもある警視総監兼警察庁長官佐々木徳篤の特命により群馬県のとある場所へと向かっている。 「よし、着いたみたいだぞ」  吉倉が前を指差した。そこには朽果てた案内板のようなものが淋しく立てられていた。そこを通りすぎる際、神原はそれをちらっと見た。 『濱癘(はまらい)村』 朽ていて読みにくかったが看板にはそう書かれていた。  この村は二十年前に起きた惨劇の舞台である。群馬県の端にあるこの村に二人は用があるのだ。 「にしても、何があるんスか?ここに?」  神原の質問に吉倉はぶっきらぼうに答える。 「もう一度調べてみようと思ってな」 「そう言えば、先輩は二十年前の事件も関わってるんスよね」 「あぁ。警視総監がまだ警部だった頃にな」  そうこう言っているうちに濱癘村の入り口に着いた。そこから見た景色は忘れ去られた廃村そのものだった。家や標識と言ったものは皆朽果て草木は生えるにまかせて思い思いに伸びていった。道も、道とは見えないほど荒れ果てている。周りに生える木々も、よくホラーものに出てくるような不気味な朽ち方をしていて恐怖心を掻き立てる。 「は~、凄いっすねぇ~」 「そりゃ二十年もほったらかしになってたからな。こうなって当然だろ?」  車を置いて、二人は中へ入った。草を掻き分け進んでいく中で神原は吉倉に色々と聞いてみた。何分、彼が生まれる前から起こっている怪事件。色々と知っておかないとこの先やっていけない気がした。
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