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ある大木の後ろに長い髪の少女を見た。だが、木々の陰と逆光のせいで顔までは確認できなかった。あくまで髪だけで神原が勝手に判断したに過ぎない。長髪の男の可能性だってある。その髪の主は神原の視線に気づくや森の中に消えてしまった。
長く髪の主に気を取られていたので、彼はタバコの存在を忘れていた。落ちた灰がたまたま彼の左の甲に落ちて、慌ててそれを払いのけた。灰が落ちた箇所に息を吹きかけていると、建物の中から自分を呼んでいる声が聞こえてきた。
「おーい神原ー!」
声の主は上司の吉倉だった。今行くと返事してから、神原は吸っていたタバコを携帯灰皿の中に入れ中に入っていった。
中では、吉倉を中心に皆が集まってうんうん唸っていた。
「何か見つかったか?」
吉倉はつい先頃戻ってきた三人に訊いてみるが彼らは空しい表情で首を横に振った。
『ダメだ、なーんもありゃしねえ』
「どこの家も、生活感が無かったわね。というか、消されていた感じを受けたわ」
『うむ。もう一度見てみたが澪龍の言う通り、何か不自然だったな』
三人がそれぞれの感想を述べ終えたところで、吉倉は自身の頭の中でこれまでのことを整理してみた。
①二村共、村人が『一人を除いて』全員謎の死を遂げている。
② その生き残った一人も、数日後に混合毒物により殺されている。
③ 二村には共通した造りの『御八代神社』が建立されて、同じ神が祭られていた。
④ 二村には共通した苗字を持つ『四家』が存在していた。
下二つは後に義経達が報告することになるが、整理してみるとこの二つの村が非常によく似ていることが分かる。偶然と片付けてしまえば簡単だが、どうも吉倉はそれでは片付けられない何かが頭の片隅に引っかかって仕方なかった。
そしてもう一つ、彼の頭にはある予感が先程から頭の中をよぎっていた。それは、今から六十年前、戦後間もない頃に発生した未解決事件であり戦後最大の恐怖として当時の新聞の一面を独占した、この二つの怪事件の元祖とも言うべき村の件であった。
(まさか………な)
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