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徳篤は家にいないという報告が、その日の夜遅くに正徳から吉倉に届いた。彼によれば、家に帰り徳篤の書斎に入ると、立派な机の上に一通の置手紙が置いてあったようだ。
『暫く家を空ける。心配するな』
手紙にはそう書かれていたという。母の喜美恵に聞いたが、行き先は知らないという。こんなことは今まで無かったと彼は続けた。
彼は熟考した。このまま分かれていてはいつまたあの時のように命を狙われるか分からない。どこか安全な場所に固まっている方が良いのではないか。そういった結論に達した吉倉は正徳にそのような場所がこの都内に無いか尋ねてみた。
『一応、三つはありますよ』
正徳は電話からその三つの候補を上げた。確かに安全な場所ではある。
進藤家・後藤家・神戸家
現在当主不在の佐々木家を加えたこの四家は、古来よりこの日本を守ってきた大家であり強大な力を持った一族である。特に、進藤・後藤の二家はその中でも抜きん出た連中の巣窟である。彼ら四家の分家も、日本全国に散らばっていて宗家同様この国を守っている。
吉倉は数秒の思案の後、集合場所をある一族の邸宅に決めた。
『正徳君これから言うところに皆を集めてくれ。いいかい………』
吉倉は電話を切ると、彼は別の番号にかけある人物に連絡を取った。
「もしもし吉倉です」
「大変なことになったのう、暎柾(あきまさ)や」
二十畳はあろう客間で白髪交じりの初老の男、この邸宅の主は愉快な笑いを浮かべて対面している吉倉や正徳たちを歓迎した。
「笑い事じゃないんですよ?龍造さん」
吉倉は悲痛な顔を老人に向けるも、老人は軽く流した。
――――進藤龍造
吉倉達が対面している男の名であり、この邸宅の主の名である。そして、四家の一つ進藤家の現当主である。
余談だが、先祖の故郷である中国姓で中国の読み方だと趙龍造(ヂャオ・ロンザオ)というらしい。他の当主は劉徳篤(リィゥ・デェ゛ァドゥ)、周晶泰(ヂョウ・ジンタイ)、司馬達江(スーマー・ダージィァン)という。
その時、襖が開きそこから一人の上品で気品漂う女性が人数分のお茶を持って現れ、それぞれの前に配膳した。
「どうぞ、暎柾様」
吉倉はありがとうと笑みで返すと、そのまま彼女は開いている場所に座り話に加わる姿勢を見せた。
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