三 波乱

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 怒りを通り超えて呆れた口調で、蹲(うずくま)り悶絶している彼女に容赦ない言葉を浴びせる二人を、神原以外は口を押さえて必死に笑いを堪えていた。どうやら、これは彼女がたまに帰ってきた時に発生する日常らしい。いつもは、ここの次男坊である龍二が起こしているらしいが、生憎と彼は今友人達と長期の旅行に行っていて留守なのだという。  咳払い一つして、吉倉が今後のことについて話し合いを始めた。部屋については、龍造より好きな部屋をいつまでも使って良いというお墨付きをもらっているので問題は無い。  この数日の調査で、事件の真相には六十年前の事件の舞台・長野県にある廃村旧蔵澤村が関係していることは間違いない。そこに行けば何か事件に関係するものがあるかもしれない。彼らはそう確信していた。そこで、問題が一つ。  自分達を襲ってきた連中のことである。あれは確実に自分達を殺す気でいたことから、自分達に知られてはならない何かを守ろうとしていた。つまり、あの村には何か重大な―――それも、この国の根底を揺るがすようなとても大きなものが。 吉倉達が真剣な話をしている最中、神原は一人、物思いに耽っていた。気になっていることがあったのだ。  少女の存在である。綿ヶ貫(わたがぬき)村、濱癘(はまらい)村で感じた少女に見られていた理由を考えていた。見ていた、ということは何か自分達に訴えたいことがあったのか?それとも、単なる好奇心か。  後者は無いだろう。あの辺りは地域の住人ですらほとんど忘れ去っている陸の孤島の如き場所である。そんな場所を、二十歳にも満たない少女が知っているはずも無い。偶然という可能性も考えたが、あんな何も無い場所に好んで来るとも思えなかった。  では一体何の為に……。そこまで考えた時 「………あっ」 彼は綿ヶ貫村でのことを思い出した。確かあの時、足元にあった石を拾って――――――。  神原はスーツのポケットの中を探った。もし、あの時の服が今日来ていた服であったなら、どこかにあれが入っているはずだ。  探していると、右ポケットに突っ込んだ指が何かに触れた。 「あった」  小声で彼は叫んだ。あの時拾った物に間違いない。  さてさて、これは一体何であろうかと彼は包(くる)まれていた紙を広げ、それを吉倉達に見えないように隠して読み始めた。 ―――三日後、群馬県高崎市仔峯山山中『神門(みかど)』にて待つ―――
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