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くしゃくしゃになった紙にはそう書かれていた。それを見て神原は「ん?」と首を傾げる。高崎市にそもそも山なんてあったであろうか?
だが三日後というと、明日ということになる。
「神原君といったか。ちょっと俺の部屋に来てくれないか?」
突然、龍造が微笑しながら神原に声をかけた。きょとんとしている神原は龍造に差し出された手をずっと凝視していた。
「……俺の手に何かついてるか?」
そう言われて慌てた神原は首を振って否定してそそくさと彼の後についていった。
通された龍造の部屋は、本棚に大量の書物が置かれていて、そのどれもが古くさく歴史を感じた。それは和室にあまり似合わないが、相手が相手だけに似あってるような感覚になった。
龍造は神原に好きな所に座るといいと告げ、彼は和室にやはり不釣り合いな四つの椅子の一つに腰掛けた。
「慶三とやら。お前さん、明日高崎に行くんだろ?」
出されたお茶を飲んでいた時に、龍造のこんな一言を聞いたものだから彼は思わず飲み込もうとしていたお茶を盛大に噴き出して、少量が気管支に入ったか咽び返っていた。
「な、何で知ってんスか!!?」
彼は問い詰めるが、龍造はふふんと笑うだけで一切答えようとしなかった。その笑いは、お前のことなら何でも知ってるぞと暗に語っているようにも見え、彼は内心恐怖した。流石は『異能』の力を持った進藤家だけはあるなと感じた。この老人を含め、この四家には隠し事など全く通じないんだろうなと思い、仕方なくことの顛末をやや簡略しつつもそれなりに正確にこの老人に伝えた。
「成程のぅ………」
それっきり龍造は黙って何か独り言を呟いていたが、神原はその間一言も口を挟むことはしなかった。何故かは彼自身にも分からないが本能が「しゃべるな」と彼に語りかけているように彼には思えた。
やがて、手を打って神原に振り向いて言った言葉は
「慶三や。お前、明日朝一で高崎に行って来い」
であった。当然、神原は鳩が豆鉄砲喰らったような顔になり「はっ?」と声を出してしまうほどだった。
「それはお前が拾ったんだろ?だったらお前が行くには当然だろうが」
理屈は合っているが、それをどこかで納得できないでいる自分の存在も確認できた。てっきり反対されると思っていた神原は、開いている口を塞がないまま龍造に声をかけられるまで放心していた。
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