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「何心配するな。お前には風龍をつけてやるから」
「はぁ………」
「何をそんな腑抜けた返事をしておるか。しゃきっとせんか」
そんなこと言われてもな………、と思っていた彼の耳に、龍造の呟きが耳をかすめた。
「これが、この事件の鍵になるやも知れぬしな………」
神原は緊張していた。群馬は高崎に向かう車中で、仕事とはいえ女性と―――最も、人間とは違う存在ではあるが―――二人っきりになったことが生まれてから一度も無いのだ。全く免疫の無いこの状況で、彼は紅潮したまま助手席に座る風龍に何も話すことができなかった。
「そんな緊張しなくても宜しいですよ、慶三様」
「は、はひっ!!」
ただでさえ女性慣れしていない上に様付けされて彼は尚更緊張してしまう。それがおかしいのか彼女はくすくすと顎に手をやり「面白い方ね」と楽しんでいた。
彼は一度休憩を取る為に近くのレストランに立ち寄った。たまたま立ち寄ったそこは、雑誌に乗るほどの名店らしく適当に注文した料理を食してみて思わず「うめぇ!!」と叫んでしまったほどだ。風龍はこの料理を主人の龍造に食べさせる為にシェフを呼んでこの料理の詳細を細かく聞いていた。
「今どの辺かな?」
食後のコーヒーを飲みながら、神原は持参してきた地図を広げて対面する風龍に尋ねてみた。彼は「いつまでも情けない姿を晒すわけにはいかない」と固く決心し、なんとか平静を保っているに過ぎない。背中には大量の緊張の汗が流れていた。
「そうですね。さっき看板見ましたから……この辺じゃないかしら?」
彼女は地図のある場所を指した。
『埼玉県熊谷市』
「うへぇ、まだここか~」
がっくり肩を落としちまちまとコーヒーを飲む神原を眺めながら、風龍はまあまあと彼を宥めて、時計を指差して苦笑した。
「まだ朝の八時ですよ?むしろ順調なんじゃないかしら?」
時計の長針を見た神原はあぁと唸り、無駄に心配したせいか机に突っ伏した。思い返せば、昨日はそのまま龍造の家に一泊したはいいが早朝四時に家の主に叩き起こされて、手配された車で発たされたのだ。
「暎柾には俺の仕事で借りたことにしておくから安心せい」
などと龍造は言っていたが、正直結構ツラい。暁になりかけていた空を眠たい眼を擦りながら眺めて、彼は緊張しながら風龍に一時間の仮眠を申し出た。
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