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快諾された彼はジャスト一時間仮眠を取り、その後目的地の高崎を目指して、今に至るわけだ。
「さて、もう少し休憩したら出発しましょうか」
「はい」
返事をした彼は一気にコーヒーを飲み干し、彼女を急かして車に乗り込んだ。彼女は彼の変わりように一瞬戸惑いながらも、これはこれで良いと微笑んだ。
(人はやはり面白い)
不死の身の彼女にとって、限りある命の中で懸命に生きていく人間の変化や成長を観察するのは実に楽しい『余暇』の過ごし方である。何千年とこれを繰り返してきたが、いつの時代(とき)も飽きることは無くその時々の人間模様は人という生態を実の如実に現していた。
(この時代の人間もなかなか楽しめそうですね)
微笑を絶やさぬまま彼女は助手席に座って彼の運転に任せた。
「―――なんて、意気込んだはいいけどさ………」
額に汗水を垂らしながら、神原は達人級のハンドル捌きで前行く車を次々に避けて、バックミラーに映る黒き車から放たれる銃弾の嵐からも華麗に避けていた。平たく言えば、彼らは現在何者かに追われていて、平日の真っ昼間の公道でカーチェイスを繰り広げているのだ。
「いくらなんでもこれは無いでしょ!!!」
道路交通法などという法律は、警察官である神原は遵守しなければならないが今はそんな場合ではなく、他人の車にぶつかりそうになろうが罵声を浴びせられようが命に関わる問題を最優先する彼はとにかく人気の無い道に逃げ込もうとある種の勘で運転していた。
「私も協力してあげたいのは山々なんですけど………」
風龍が言葉を濁すわけは至って単純で、彼女の技は主に風を媒体とするのでこのような人の往来する場所で使っては関係の無い他人を巻き込んでしまう為である。彼女に技を使わせるには人気の無い、ほとんど使われていない道でなければならない。
最も、既に衝突事故や何やら被害は出ているので、そんなことを言うことはできないのだが。
「この神原慶三巡査長をナメんじぇねえ!!」
彼は精一杯叫んだ。彼の第六感が素晴らしくその才能を発揮し、初めての土地であるにも関わらず裏道やら抜け道やらがすぐに分かり、弾丸を避けながらそこに車を滑り込ませた。
「しゃあ!風龍さん、いっちょ頼んますよ~」
逃げ込んだのはどこかの森林に囲まれた山道であった。ここなら彼女の技を存分に使っても誰も被害を受けない。
「はい」
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