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治療はしたが、彼女の衰弱は激しくどの道危ない。
「取り敢えず水のある場所………」
どこにあるのか分からない水流を求めて神原は歩き出そうとしたが、風龍に呼び止められ「耳澄ませてください」と人差し指を唇にそっと置いた。言われた通りに耳を澄ましてみると小さいながら何かのせせらぎの音が聞こえる。神原は風龍から少女をひったくると、彼女の静止も聞かずせせらぎの音が聞こえた方向へ一目散に駆けて行った。
「やれやれ………」
今の神原の姿が、今は別の場所へ行っている、当主龍造の次男の姿と被さって彼女はおかしくなった。世の中には自分と瓜二つの人間が三人いると聞いたことがあるが、これは別の意味で似ているのではないか。
(やはり人間は面白いですわ)
永年進藤家に仕えてきて、その時々の当主の下で様々な人間に接し、観察してきた。堅物な人、温和な人、おおらかな人等々多様な人を見てきた。だが、今の時代が一番面白く思える。
「さて、追いかけなくては」
彼女が向かった先には小さな小川が流れていて、神原は少女に懸命に水を飲ませようとしていた。その行動のぎこちなさが風龍には見ていられず、彼の押しのけて少女に水を飲ませてやった。
「気絶してますから、暫くそっとしておきましょう」
とは言え、こんな山のどことも知れぬ場所を無闇やたらに歩く趣味はないし、その前に危険はまだ去ったわけではないのだ。
「私がお守りいたしますから、どうぞご安心ください」
風龍は簡単に言ってくれるが、それがどんなに大変かは想像するに難(かた)くない。そして、つくづく自分が情けないことこの上ない。
「慶三様。先程も申しましたが、私は特殊なのです。言葉は悪いですが、慶三様のような一般人とはわけが違います」
風龍の痛烈な一言によって神原の心は深く深く抉られ、あわや立ち直れないほどの傷を受けたが、すぐに風龍の天使の笑みが向けられた。
「慶三様には私にはできなく、慶三様にしかできないことがありますわ。それを一生懸命にやれば良いのではないでしょうか」
「……そう、ですね」
納得はしたが、ここは一体どこなのだろうか。
「ここ……どこでしょうね?」
「……そうね」
現実に戻った彼らは黄昏にくれている時、彼らの耳に先程の少女のうめき声に似た声が入ってきた。
「ん……ここは?」
「慶三様、気がついたようですよ」
「大丈夫かい?」
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