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声をかける知らない二人の男女に、少女は警戒心を露にし、身構える。
「待て待て。俺達は君に危害を加えるつもりはない」
神原はそんな意思がないことを示すように両手を高く上げた。風龍も同じように手を高く上げた。
「………?」
「俺は神原慶三。警視庁の刑事だ」
「私は風龍(フォンロン)。慶三様の相棒です」
神原は少女に名前を尋ねた。少女は名を言おうとしてほんの一瞬躊躇った。赤の他人に自分のことを伝えるのは些か気が引けたからだ。しかし訊かれた以上は何か答えなければならない。
「……華奈未(かなみ)」
彼女―――華奈美は短くそう答えた。彼女の名を聞いて神原は何か引っかかる感覚を覚えたが彼女の姿を見てすぐに吹き飛んでしまった。
彼女の衣服―――たぶん学生服であろうセーラー服―――はどういうわけかボロボロになっていて少女の柔肌がその裂け目から見えているし、靴もその原形を留めていない。
神原は声にならぬ声を上げて慌てて目線を逸らした。それに気づいた風龍は自身の上着を自然な流れで彼女にかけてやった。そのお陰で華奈未には知られることはなかった。
「貴方は、何で人の襲われていたの?」
優しい言葉で尋ねる風龍の言葉に、またも警戒感を表すが、悪意はないと感じた華奈未は理由を小さい声で話した。
「私が……だから」
「えっ?何だって?」
肝心な理由が聞き取れなかった神原はもう一度言うよう頼んだが、華奈未は顔を俯けて話そうとしなかった。
「慶三様?女の子に何度も訊くのはマナーがなっていませんわ」
風龍の一言が彼の心に突き刺さったか、彼は地に膝と手をついて一人悲しんだ。
「君は一体どこに向かっていたんだい?」
立ち直りが早い神原は、華奈未がこんな人が知っているかどうか分からない山奥に何の用があって入っていたのか気になっていた。
「人に……会いに来た」
「ということは、誰かと待ち合わせているのかい?」
こっくりと頷く華奈未は、ある言葉を口にした。
「山荘の……『神門(みかど)』で」
「!!?」
「あらあら?天の導きかしら?」
これは一体どこの神の導きだろうか。
「これは君が書いたのか!?」
「慶三様、少しは落ち着いてくださいな」
興奮して詰め寄ろうとする神原を後ろから羽交い絞めして取り押さえる風龍は、華奈未にある事を尋ねようとしたが、その前に彼女が口を開いて彼らにこう尋ねてきた。
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