一 全滅の村

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「それは本当か?」  白髪混じりの初老の男が自分の正面に座っている男に語気を強めて言う。 「間違いない。さっきお前が席をはずしているときに息子から電話があってな、現場で確認したようだ」 力なく男は答えた。  ここは首相官邸。現首相・槇田皓治(こうじ)は例の事件の件で古くからの友人でもある佐々木徳篤(のりあつ)警視総監兼警察庁長官を招き話を聞こうとしたのだが、つい先程、用から戻った槇田に徳篤が「山瀬が殺された」との報告を受けて驚いていたのだ。 「息子の話では死因は毒殺。それも、人工的に作ったやつだそうだ」 「人工的に、だと?」 「あぁ、正徳の話じゃあ、青酸カリとヒ素を合わせたやつだとか」 「そんなこと可能なのか?」 「さあな、それには俺は詳しくないのでな。だが、現に沿う報告されているってことは可能なんだろ?」  槇田は頭を抱えた。事があの時とよく似ていたからだ。まさか、自分が首相になってから起きるとは思っても見なかった。 「これは俺の勘だが・・・・・・」  沈んだ口調で徳篤が六十年前から続くこの一連の事件に対する自分の考えを述べた。 「あれらの村には何があると思う」  槇田は徳篤が話すに任せて聞き入っている。 「実は俺の部下の吉倉達を濱癘(はまらい)に行かせたんだが・・・・・・どうやら、資料どころか塵一つ無かったそうだ」 「・・・・・・ということは?」 「誰かが持ち出したってことだ。何かを隠すためにな。確認のため、あいつらは明日綿ヶ貫に行くそうだ」 「待て徳篤。お前の考えが当たっていれば危ないんじゃないか!?」  心配そうな槇田を見た徳篤はわははと笑った。  槇田には理解できなかった。この事件の裏には間違いなく何か巨大な力が働いている。たとえ徳篤の力をもってしても敵うものかどうか分からない。それなのに、徳篤(とも)のこの余裕は何であろう。
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