偽りの花嫁は血に染まる

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トントン…… ふと、ドアをノックする音が響く。 着替えのアシスタントの一人が扉を開けると、中年の男性と、若い青年、そしてカメラを持った若い女性が立っていた。 「あ、誠二さん!会いたかったーっ!」 高津が、青年を見て声を上げる。 青年の年は高津より少し上くらいだろうか。 きっちり整えられた髪型で、少し眉毛が太めの親しみやすい顔。誠実そうだが少し気は弱そうな印象を受ける。 高津の態度からして、婚約者であろうことは雨宮にも容易に想像がついた。 「理佐……すごい綺麗じゃないか。さすが花子ちゃんのデザインしたドレスだね」 誠二と呼ばれた青年が、高津を見て笑いながら言う。 「ドレスもそうだけど!元が綺麗じゃなきゃダメなのよ。ドレスだけじゃなくて、私も褒めてよ!」 高津が不機嫌そうに言う。 「ああ、ごめんごめん!綺麗だよ理佐」 誠二の言葉に理佐はパッと笑顔になる。 「きゃーっ!嬉しい!愛してるわよ、誠二!」 「ちょっと黙れませんか?バカップルさん達」 高津の言葉を花子が制する。 「あ……ごめん。私ったらつい……テヘッ!」 「何気色悪い笑い方してるんですか」 高津の言葉にすかさずツッコミを返す花子。 「いいなあ。ラブラブカップル」 小花がちらっと雨宮を見ながら、明らかに死語であろう言葉を発する。 「で、お父さん。そちらの女性の方は?」 そんな小花を気にも止めず、花子が中年の男性に向き直る。 「ああ、申し訳ない。雨宮君、久し振りだね。花子はしっかりやってるかな?」 「お久し振りです、東吾(とうご)さん。花子はとても良くやってくれてますよ。俺には勿体ない助手です」 花子の質問に答える前に、軽く挨拶する杉山東吾と雨宮。 年齢は40そこそこといったところだろうか。 優しそうな瞳が印象的な、人当たりの良さそうな人物だ。 肌は色黒で体も結構がっしりしている。 花子の話だと、スポーツ全般に長けていて特にサーフィンはかなりの腕だそうだ。 だが……いや、だからこそと言うべきか。 流行をしっかり理解している彼はデザイナーとしても超一流で、先代が残した小さな店から10年で世界レベルのブランドに育て上げる経営手腕も兼ね備えていた。 雨宮が彼に対して、普段よりしっかりとした敬語を使うのは、心から彼を尊敬しているからに他ならなかった。
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