優美な不幸

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   血を舞わせながら勢いづいたナイフはそのまま宙を切る。  その左手はそのままに、唖然とした表情の男の身体を蹴りつける。  狙う先は、たった今、ナイフが作った薄い切り口。  靴の先が男の筋肉質な身体をえぐるように捉える。 「ぐっ……」  息を詰まらせた男を見て、思わず笑みを作りかけた自身を叱咤。  ……だからここで笑っちゃったらお嬢様となんら変わりはないってば……。  前方に崩れかけた男の身体の下敷きにならぬよう、左足を軽く引いて男と距離をとる。  手持ち無沙汰なままだった右手で拳を作った。  倒れかけの男の身体――その首元に向け、握った右手を思いっきりたたきこんだ。 「……っ……」  今度は声もなく、ただ身体を引きつらせただけの男は、目を見開いて呆気なく倒れた。  半秒ほど遅れ、男の所持していたライフルが地面に落ちる。  痙攣を繰り返す男の身体を見下ろし、小さく息をついた。  ――やっと終わった……。  密林の緑に覆われた微かな空を見上げる。  街に出ればたぶん晴れてんだろうな……こんな森の中じゃ晴れも曇りも関係ねぇけど……。  
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