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ただひたすら泣いていた…派手な衣装やメイクもそのままに。
『本当の自分』というものを失いかけてしまったから…。
今の彼に似合うのは、哀しい旋律…それだけ。
彼は常に完璧な『演技』を追い続けた。
その努力もあり観客の心に入り込み、次々成功をあげるにまで至った。
だが彼はそうするあまり、一番近い人…つまり『本当の自分』を粗末にして傷つけてしまった。皮肉にも…徐々に完璧に近づくにつれ気付いてしまう。
…たくさんの客に認められようとすればするほどに、内側の自分が削れてなくなっていくことを。
涙が止まるまでだいぶ時間はかかった。
衣装を脱ぎ、メイクを落とすと…『本当の自分』が現れた。やはり赤い鼻をしていたのだった…泣き過ぎて。
それを彼自身は少し呆れて笑ってしまった。情けないほど些細なのに。
どうやらこの赤い鼻は暫く外せないらしい。不思議とまだ頑張れそうな気がしてきた。
『彼』は『道化師』に優しく…そして少しだけ厳しく告げた。
“いつまでも座り込んで泣いてないで…そろそろ立ち上がって楽しませてくれよ。まだショーの途中じゃないのかい?”
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