別れ、新たなる旅路

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 一瞬の静寂――。次の瞬間、渦の中から一条の激光がほとばしった。光は空を駆け登り、大気を切り裂いて雲を一直線に貫いた。  凄まじい雷の爆発が大地を震撼させ、豪雨が派手に降り注ぐ。見物人は完成を上げた。泥を撥ね散らかしながら踊る子供、盛大に拍手して歓喜する大人達。  兄妹は呪文が正しく発動される瞬間の、全身を突き上げるような恍惚で思わず笑い出した。火照った肌に冷たい雨水が添い、足を伝っていくのが何と心地良いことだろう。杖で大きく輪を描くと雲が渦巻き、雨脚が激しくなる。  もし、これだけ強力な技を損ねてしまったのなら双子は間違いなく生きていないだろう。自分達の限界を超えた魔力に肉体が耐え切れないからだ。内側から木っ端みじんに引き裂かれただろう。  嵐もやがて消えていく。雲の切れ間から陽光が射して目を焼いた。 「見て……」 空に鮮明な虹が架かっていた。傾き始めた燃える陽光と映えてあまりにも美しい。ウィーナが一言付け加えると、虹は薄く空一面に広がった。水浸しの大地、輝く大海にも映えて全てが虹になった。人々は言葉を失った。静寂がいつまでも続く。聞こえるのは草原を駆け巡る風の唄、風の囁き、海原の轟きのみ。いつまでも、いつまでもそれだけが響いていた――。
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