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朝日で輝く海は眩し過ぎて直視できないほどだ。雲一つとしてない。海面下に大きな黒い影がいくつも見える。エルメラスは影に寄り添うように下降し、平行して飛んだ。
「久しぶりだな……元気そうで何よりだ」
エルメラスは嬉しそうにつぶやいた。
「知っているの?」
彼は頷いた。
「俺は長い間、同族と離れて暮らしてきた。人間には殺されそうになる、獣にも逃げられた。受け入れてくれたのは、鯨だけだった」
海面に広い背中が現れた。歓迎するように潮を噴き上げる。
「奴らは身体だけでなく心も広い。俺を仲間に入れてくれた。奴らが魚の群れを嗅ぎ当てて、俺は天敵のシャチや鮫を狩る。奴らだけが俺を恐れなかったんだ」
最後の一言には皮肉が込められていた。
潮風に吹かれ、カレンは故郷に思いを馳せた。今でも鮮明に浮かぶ美しい田舎町、今は失われてしまったんだと思いだし、深い悲しみが押し寄せる。旅はこれからさらに長引くだろう。待ち受ける苛酷さを憂いてため息を一つ。
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