別れ、新たなる旅路

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 二人の憧れに満ちた顔付きを見ると、かなり特別な人物であることがうかがえる。 「そいつは誰なんだい?」 バーバラが眠たそうに問い返す。彼女は既に横になって欠伸を繰り返していた。 「有名な歌劇女優さ。草原の蛮族出身で、希代の歌姫。僕らの母さんも歌劇女優だったんだ。エーヴァ・ドロシアは母さんの愛弟子だった」 カレンはますます未知の都へ想いを馳せ、自分自身を歌劇女優に見立てた白昼夢にどっぷり浸かった。 「何かいる」 エルメラスが急に身体を膨らませて威嚇し始めた。牙を剥き出して見えぬ敵を圧倒しようとする。 「下がっていろ」 カレンは怯えて彼の下に隠れた。草むらに光る何対もの眼、微かに聞こえる唸り声が近づいてくる。  正体は灰色の草原狼だった。七、八頭の群れである。エルメラスの恐ろしい容貌と巨躯に恐れをなしてやや引き下がる。  怯えるカレンの脇を白い狼がすり抜けた。ジーンとウィーナはその姿で何をする気なのだろう。大将格の狼は見下ろすように二頭の白い狼を見つめた。 「おお、三日月島の兄弟分殿であったか」 狼の群れは背の高い蛮族達に変わっていた。 「これは失礼した。俺はラーローン氏族の長、オシムと言う者。周りは部下だ」  オシムはガラス玉や鮮やかな羽飾りをあしらった装飾を純白の毛皮の上にまとっていた。日に焼けたような金茶色の肌、金属めいた鉄色の髪、よく見ると双子と同じく鮮やかなラヴェンダー色の瞳をしていた。握手しようと伸ばした手にも双子と同じく水掻きがある。
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