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カレンは久しぶりの活気に付いていけず、きょろきょろと目移りしてしかたがない。目があと三つほど欲しいくらいだ。
「目が回るわ。なんて騒がしいの」
カレンはよそ見して歩いていたせいで、鎧姿の大きなローランド人にぶつかって倒れてしまった。
「これはとんだ失礼を。お嬢さん、怪我はありませんでしたか?」
彼はわざわざ膝まづいて立たせてくれた。とても若い青年である。
「大丈夫よ。わたしこそ失礼しました」
青年は何度も怪我を気遣いながら去っていった。カレンは青年の優しさと礼儀正さに心打たれて、彼の背中に見とれていた。
「あれはローランド騎士さ。礼儀と誇りを重んじる。女や年長者に敬意をはらうのは大切な心構えなのさ」
バーバラが懐かしそうに教えてくれた。
「それにしてもなんか見覚えがあるやつだったね、エリック?」
「そうか?」
カレンは騎士と聞いてすっかり夢見心地だった。騎士は歌劇の題によく取り上げられる。怪物と戦ったり、どこぞの姫君を助けたりする。彼女にとっては憧れだった。
「騎士か……」
ローランドに行けば会うことができるのだ。あの颯爽とした鎧姿、気品ある礼儀正しさを思い浮かべるだけで心が躍る。
先に進むとそびえ立つ円形の建造物が出現した。芸術の都の名を大陸全土にしらしめる象徴、セレン=ガレーテ大歌劇場である。中からは軽快な歌声が響いてくる。
「ちょうど無料公演の時間だね。入ってみるかい?」
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