予知

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 カレンは預言者の巧みな語り口に心奪われた。語りが終わった後もしばらく古代の戦を思い描き、絵画によく描かれる絶世の美少女が連合軍を率いていく様を夢見ていた。  イサキには「剣の木」と言う木があり、大木の前に伝説の剣の模造品が台座の上に刺さっている。子供達の間で剣を抜く(ふりをする)遊びは定番だ。カレン達三人もよくそうして遊んだものだった。  すでに夕飯時も過ぎ、宿にいるのはイサキの住民ばかりである。カレンはうとうとしていたが突然場違いな叫び声が宿を凍り付かせた。恐怖に満ちた黒い瞳を張り裂けんばかりに見開きながらカエラが叫んでいた。  彼女の周りで次の話をねだっていた子供達が怯えて泣き叫び、噂話に興じていた親達が何事かと訝しげに身をすくめ、慌てて我が子を抱き抱える。 「どうしたんだ、婆さん。子供達が怯えている。落ち着きなさい」 アルバータは平静を装ってカエラをなだめた。目には明らかに不安が顕れていた。声を潜めて尋ねる。 「何か見たのか?」 カエラは激しい目付きで告げる。 「十八年の月日を経て、悪夢が訪れる。すぐそこまでゴブリンの小隊が船で迫っている。海岸上陸まで時間が無い。いますぐ地下へ逃げよ。広場にある剣の木の元へだ。早く、早くせよ」  イサキの前に広がる海にはゴブリンやオーガーの海賊達がたくさんいる。イサキは十何年かに一度襲撃を受けてきた。カエラはそのたびに予見をし、イサキの人々を守っている。  今年の冬はひときわ厳しく、実りも貧しかったのでイサキも大変だった。海賊達は飢えたに違いない。毎回そういう年に襲ってくる。イサキはその度に全てを失ってきた。アルバータは生涯の中で三回襲撃を経験しており、直ぐさま緊急警告の半鐘を打ち鳴らした。
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