少年A

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一日の最後の授業が終わり、縁が職員室に戻ると、職員室の前で生徒指導の教師が怒鳴っていた。 その陰から、一人の生徒が出てくると、縁に向かって手を振って走ってきた。 「センセー!来たよっ」 縁は一瞬何が起こったのかわからず、縁の後ろに隠れたその生徒を見た。 「…新、井?」 新井ってこんなやつだっけ。 一度しか見たことがなかった新井は、記憶とは少し違っていた。 まあ、しゃべったこともないから顔をはっきり覚えてなくても当然かな。 慌てて自分に言い訳して頷くと、今の事態をはっと思い出した。 「志村先生、新井に用ですか?」 新井と話をしていた生徒指導の教師が縁に声をかけた。 「あ…、僕はあとででも…」 「そう!俺センセーに呼ばれてんの!センセー急いでるみたいだからさ、またなっ西嶋!」 縁の口を塞いで遮ると、新井は縁の手を掴んで職員室と逆方向に走った。 そうそう、西嶋先生だ。 新井に引っ張られながら、新井が呼んだ生徒指導の教師の名前を聞いて縁はやっと思い出した。 廊下の奥の外側の階段に出ると、新井は止まって縁の手を離した。 「…はぁ、センセー来るの遅いよ。俺西嶋に目つけられてっからさ、頼むよ」 背の高い新井に睨まれて、縁はたじろいだ。 俺も175はあるから、低いほうじゃないのにな… 「あー…ていうかっ、お前今学校来たのかっ!?」 「うん。俺朝弱いんだよね」 ・・・って、もう学校終わりなんですけど。 縁は呆気にとられて、ぽかんと新井を見た。 「で、何の用?」 新井の声にはっと我に帰ると、縁は脇に抱えたファイルを持ち直した。 「あ、そうそう。新井俺の授業全然出てないだろ。そろそろ中間テスト…」 「何の授業?」 縁はため息をついた。 授業も覚えてねーのかよ。 「…数学Ⅱ」 「あ、うん。出てないかも」 ぽん、と顔の前で手を合わせると、新井は頷いた。 「お前、出席マジやばいからさ。次からちゃんと出ろよ」 「うん、起きれたら来る。もういい?」 そう言うと新井は階段を駆け降りた。 が、すぐに戻ってきて、 「センセー、名前何?」 ときいた。 「…志村。数学の、志村縁!名前と授業ぐらい覚えとけよっ!」 縁が怒鳴ると、新井は笑顔で 「オッケー♪〃」 と手を振ってまた階段をバタバタと降りていった。 新井の足音が遠くなると、縁は呆れて肩をすくめた。
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