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「だから結婚はできないと橋本さんにお断りしたの」
梨佳子は本当の事を深呼吸した息を全部吐ききるように一気に伝えた。
普段から無口な父親は、今回も何も言おうとはしなかった。
「それと・・・会社も辞めたんだ、家賃の安い所に引越しもして 事後報告でゴメンナサイ。」
「あなたは何を考えているの?!結婚を断って、会社も辞めて、これからどうするつもりなの? その方と結婚するの?」
「いいえっ そんな事は考えてない・・・」
「考えてないってあなた自分の歳を考えなさいっ」
「はぁ~。」
父親は何も言わない代わりに大きなため息を残して2階に上がって行ってしまった。
「お母さん 自分の歳も考えたし、このまま結婚した方がいいかもとも思ったよ。」
「ただ・・・好きでもない人と、自分の歳とか、収入とかだけで結婚はできないと思ったの。」
母親は口をつぐんだまま何も答えなかった。
「お母さんゴメンナサイ。」
しばらく経って
「お父さんは何も言わないけど心配してるのよ 離れて一人で暮らしている事も、仕事ばっかりだった事も なのにあなたは・・・」「これからどうするの?スグに仕事なんかあるの?せっかく大きい会社の社長秘書をやっていたのに何の相談もナシにっ」
母は涙ながらに梨佳子に言った。
『予想どうりの反応だけど、声を荒立てて怒ってくれたほうがよかったのに、泣かれる方が余計に堪えるな・・・』
「お母さんゴメンね・・・」
泊まるつもりで実家に帰ってきたのに、父と母の心配そうな顔を見ているといたたまれなくなって今日は家に帰る事にした。
親の悲しむ顔を見ると自分のやった事は間違っていたのだろうか・・・
帰る電車の中で涙ぐんだ母親の顔が頭の中を何度も何度もグルグル回って忘れられない。
『専務は仕事だろうな・・・少しでいいから声が聞きたい。』
梨佳子は家で1人でいることが無性に寂しく感じた。
『忙しいって言ってたし』
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