されど、闘いの日々

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されど、闘いの日々

“愛と正義と平和の為に…” 東京エンジェルズは今日も激しい戦闘を終えて、アジトと呼ばれる三田村博士のラボで、深夜、戦いで負った傷の手当てをしていた。 桜小路杏樹は、割れて砕け散った眼鏡のレンズ越しに、三田村博士が美剣隆一の肩を処置する鮮やかな手つきを、見つめていた。 あの日、自分が、失った…細やかだが、かけがえのない日常を、少女は見つめていた。 …片時だって、忘れもしない。 その日も、のどかな桜日和だった。 友達と一緒だった。新学期始まってすぐ、中学生最後…の文字が付き纏う、中学三年目の生活が、華々しく始まった矢先だった…とまでは言わないが、ごくごく当たり前の時間が、まだ、自分には流れていた。 こうやって自分は、普通に生きて、普通に大人になれる…ものだと信じて疑わなかった。 あの運命の時までは!! 桜並木の土手の一本道を三人で仲良く、自転車を押しながら、歩いていた。諸兄ぃがいつものように、杏樹の眼鏡をからかって外そうとする…頬を膨らまして、拗ねた杏樹、…楽しそうに声を上げて笑う梨花のクラブジャージ。全てが、杏樹の網膜に焼き付いている。 それは余りに唐突だった。どうっ…と竜巻のような黒い強風が、幼な友達のリリカ(松下梨花)と諸兄ぃ(橘 諸兄)の二人を飲み込んだ。杏樹の眼鏡のレンズが、粉々に砕け散り、彼女の黒い瞳から世界を一瞬にして奪っていく。 「傷の処置を、杏樹さん」 「…隼人さん」 「何か思い出しましたか?」 杏樹は割れた眼鏡を外して、負傷していなかった左手で弄びながら、軽く頷いた。 「…私もそうでした」 見上げる程に長身の青年が少女を慰めるように呟いた。サイボーグ人間の隼人は、彼女に優しく微笑みかける。 「…心を失ってはいけません、どのような場合でも」 杏樹は、義眼に映る隼人の悲しい微笑を淋しさの中で認めた。今や帰るべき家族の待つ場所は、彼女にはなかった。 三田村博士は、杏樹の元居た家族の家の三軒向こうの、旧い洋館に越して来た青年だった。三田村邦夫、二十四歳、彼女ナシ、二枚目の好青年であった。長身でスタイル抜群、爽やかでスポーティーな印象、ご近所付き合いも悪くない。 毎朝毎夕、蔦の絡んだバルコニーから顔を覗かせる変人の三田村と、学校の登下校中の杏樹は、ちょっとした顔見知りだった。
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