されど、闘いの日々

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杏樹は、地元の中学では割りと名の知れた女の子だった。というのは、彼女は抜群に秀才だったからだ。高校受験なんてなんのその、大学入試センター試験の問題を解くメガネっ子女子中学生、としてちょっとした有名人だった。 「三田村さん、あの問題はかなり時間掛かったけど、あと少し!で解ける!」 「へぇ…頑張ってるなぁ、杏樹ちゃん」 「でも、あたしは…行きたい高校があってさ、あたしの意志より、やっぱ家が楽出来る方が、親孝行なのかな…って」 「あの例の私立附属の、南北学園のこと?授業料タダの、お誘い」 南北学園で一番の有名人、生徒会会長:美剣 隆一は今日も、生徒会室の黒椅子で週間予定の変更の張り紙を作成していた。生まれ持ってのナチュラルブランドの長髪をなびかせ、肩で風を斬る、都内最強と噂される剣道部の副将であった。端麗眉目、スラリと長い足、ハーフを思わせる整った容貌…周囲の人間には、全てが、彼には完璧に与えられているかに思えた。 だが、それは間違いだった。 彼は、家庭に恵まれていなかった。悲しい事に、早くから天涯孤独の身となり、親戚一同を盥回しにされた…かつての美少年は、心の底から愛に飢えていた。まるで、獲物を狙う狼の如く鋭く哀しい瞳は青く澄んでいた。 彼は、中学二年生の春にして、夜の街の顔役に成り上がった。都内数千人の暴走族が彼の指先1ミクロンで動く、…などと伝説を創った。 「…それも、もう辞めた」 ただ、虚しさに耐えられなくなっていた。
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