されど、闘いの日々

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黒田 楓は、都立高校生だった。ごく真面目で目立たないタイプの、どこにでもいる高校男子生徒、…帰宅部で友達が多い訳ではなかったが、いじめに遭った経験はない。地味な印象だが、黒髪を短く刈り込んだ角刈り頭で、男前な顔立ちは、地元の激安スーパーの馴染みだった。 現役高校生主夫。 彼には、離婚した二親がいた。彼の養育権を持っていたのは、母親だ。暫くして、片親の母親は、少年の不憫を慮り、養父とするべき男を探した。だが、少年だった彼は、母親の心の変化に気付いていた。母親は、結局、少年を棄て、ある日…恋人の中年男と姿を消した。 母親の繰り返した再婚離婚の中で、楓の家族…血の繋がらない幼い兄弟姉妹達が増えてゆく。気が付けば、彼の心の支えは、彼らの母親になる事だった。 三田村邦夫は、彼の父親に反抗して組織クリムゾンから脱走を計り、九年間に渡る潜伏の後…遂に叛旗を翻した。自分の出生の秘密を知った少年は、父親を憎み、彼の恐るべき人類絶滅計画を阻止するべく立ち上がった。その為に、母親のように守り育ててくれたサイボーグの隼人まで、欺いた事は彼の心に暗い影を落とした。 隼人は…忘れ得ぬ夢を見る。シベリアに派遣される前日、新妻の静枝と二人で、先祖の墓参りをする… 戦況はこれ以上ない程厳しかった。シベリアに派遣されれば、きっと生きては帰って来れない。帝国陸軍の青年将校:天地隼人は、自らの死期を悟っていた。 「栗村…在」 かつての親友、女郎屋のボン、気は弱いが、秀才だった。そんな彼が…まさか自分を裏切るとは、隼人は思いもしなかった。 「…隼人さん、俺さぁ…残してきた家族の事が心配で心配で」 黒田楓は、右大退部に負った傷口をガーゼで押さえながら、呟いた。 「でも、こんなとこ、ちび共に見せられねぇや」 「…ハッ!ザマァねぇか、高々2・300のザコもテメェらの力で、倒せないのか」 美剣隆一がオンボロソファにふん反り返った。綺麗なクリーム色をしていただろうと思われる表地は、日光で色褪せ、長年人間にこき使われたのか、生地は薄くなり、掠れて所々糸がぼぼけている。食み出た綿が黄色く変色しており、綿埃をより効率的に生産し続ける。 「隆一君、そのソファには座らないで下さい、と私は言いませんでしたか?」 家政婦、隼人の小言を右から左に聞き流し、隆一は楓の足を診ている三田村博士に話しかけた。 「なぁ…博士、なんで俺達なんだ?」
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