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「Hi、ユキ」
その声に、雪継はムッとした。
誰が振り向いてやるものか、と無視して歩を進める。
「ユキ?」
「……」
「ユッキー!!!」
「…五月蝿いよ…」
振り向きもせず、ため息をつきながらそう呟く。
すると、突然グイッと肩を掴まれ、無理矢理振り向かされるが、雪継は即座にその手を振り払った。
「触るな」
いつも以上に冷たい声音で言葉を発して、見上げる程、背の高いブリティッシュをジロリと睨みつける。
振り払われた手を擦り擦り、ニコリと笑う彼は、雪継の冷たい言葉に怯む様子も無く口を開いた。
「何故、無視をする?」
「お前が嫌いだからだ」
「No!それは嘘だ。そうだろ?ユキチュグ」
そんな彼の言い方に、怒りゲージがググッと上がり、雪継は眉間に深いシワを作ると視線を逸らした。
ユキチュグ~!?間違ってんだよっ!!しかもユッキーって伸ばして呼ぶなっ!
心の中でどんなにそう喚いていても、心情を思うように表現する事が出来ない雪継は、思っている事が直接外に伝わる事はまず無い。
もっと表情豊かであれば、こいつも少しは諦めてくれるかも知れないのに…と今更変えるには難しい難問がいちいち頭をよぎり、雪継は俯きながら、
「もう話し掛けるな。ジョー」
そう言うと、くるりと背を向け、又歩き出した。
「俺は諦めない!シンとリズのようにお前と…!」
あぁっ!聞きたくないっ!!
背中越しに叫ばれ、雪継は咄嗟に両手で耳を塞いだ。
せっかく押し込めていた想いがぶり返してしまうなんて、あんな思いはもうしたくなかった。
雪継が森へ想いを寄せるようになったのは、Under Cityへ来て、すぐの頃だった。
その頃の雪継は完全に荒み切っており、ガラも悪く、おまけに無表情だった為、誰も近寄ろうとはしなかった。
それまでの生活も、酷く惨めで、自由と言える程の自由も無く、情報集めと人殺しの毎日。
裏の世界で産まれ、裏の世界でのみ育ったのだ。
親の顔も知らず、知っているのは自らの体を売ってでも生きる事。
盗みや人殺しなど日常茶飯事だった。
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