思い出したくない生い立ち

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 とあるマフィアのボスに些細な出来事で気に入られ、Under Cityへ逃げて来るまでの一年はもっと悲惨だった。  ボスには男色の気があり、無表情であるが故に端正な顔立ちをした雪継は執拗にその身体を求められた。  逆らえば殺すと脅され、その当時の彼には命以上に大切なものなど無く、抵抗出来るだけの強力な力も持っていなかった為に、雪継は仕方なくその体を開いた。  別にそれが初めてだという訳でも無かったのだし、これまでも男とも女とも無く股を開き金を得てきたのだ。何て事は無いと初めはそう思っていた。  しかし、ボスは日を追う毎に雪継へのめり込み、彼を片時も離そうとはせず、ありもしない嫉妬心から彼を監禁。  何かある度に浮気を責め立て、果ては殴るだけ殴ってあとは放置したり、記憶に無い罪を謝るまで食事も与えられずに何日も過ごすなど監禁の日々の中では、こんな事がそう少なくは無かった。  やがて迎えるSMS発症。  昏睡は一ヶ月にも渡り、雪継が目を覚ましたのは、真夜中の病院で清潔な匂いのするベッドの上だった。  あんなに酷い事をしておきながらも、やはりお気に入りだったのか、ボスの計らいで個室だったのは幸いと言える。  夜の闇夜にかすれ溶け込もうとする自分の身体を見た彼は、ボスから逃げ出す良いチャンスだとそう判断し、その夜の内に、まだ慣れない能力にギクシャクしながらも影を渡り、街から街へとさ迷い歩いた。  追手はすぐについたが、雪継は思うままに自らの能力を発揮して、マフィアの手先を次々に殺して行く。  楽なものだった。  罪悪感など、最初から持ち合わせてなどいない。  森や街のメンバーに出会うまで、彼は闇そのものだったのだ。  逃亡生活が半年にもなる頃、雪継はマフィアでは無く、政府の軍に発見される。  しかし何の抵抗もせずに、彼は大人しく軍に付き従った。  何故なら、政府の庇護を得られれば、例えマフィアと言えどもそうそう簡単に手は出せないだろうと、そう読んだからだった。
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