名前―name―

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「それにミリタリーコート合わせて……」 やたらと慣れた手つきで洋服を選んでいく男を、あたしは呆然と見つめる。 開いた口が塞がらない。 増え続ける男の謎。 「じゃ、俺リビングにいるから。支度終わったら来て」 「え?あ、ちょっ……」 コーディネートした服をあたしの手に預けると、男はさっさと寝室から出ていってしまう。 パタンと扉が閉まり、訳もわからないまま取り残された。 「…なんなのっ?」 とりあえず、今は服のことは置いといて。 …今から外に出る。 それなら行き先は? 考えられる場所なんて、1つしかない。 「家に帰らされるかな…?」 仕方のないこと。 1日置いてくれただけでも感謝しなきゃいけないんだ。 間違っても「帰りたくない」なんて言えない。 言えるわけない。 手渡された洋服に着替えると、あたしは重い足取りで男の待つリビングへと向かった。
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