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「似合うじゃん」
ニットワンピに白のニット帽、アウターにはミリタリーコートを羽織った。
男は満足そうに言うと、「はい」とエンジニアブーツをあたしに手渡し歩き出す。
「待って…どこに行くの?」
なんて、聞かなくても答えはわかっているけれど。
ほんの僅かな期待を込めて、男の服の袖を掴んだ。
「…アンタの家」
「そ、う…」
予想通り、あっさりと期待は消える。
まぁ、当然だよね。
赤の他人を何日も家に居させるなんて、それこそおかしな話。
あたしは来た時と同じように、男の大きなバイクに乗った。
「家どのへん?」
「…和谷町」
「りょーかい」
響くエンジン音。
あの公園を過ぎ、繁華街を過ぎ…進むたびに、あたしは素直に家の場所を教えた。
帰ったらもう出られないかもなぁ…なんて、ぼんやり考えながら。
逃げる気はもうなかった。
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