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だけど…男の腰に回した腕に、自然と力が入る。
初めはあんなに警戒していたのに、どうしてだろう。
今は、男の温もりに安心感を覚えてしまっていた。
「真っ直ぐ行って、突き当たりを右…ピンクの屋根の家」
あたしの言葉通りに進み、家の前にバイクを停車させる。
またあの生活が始まる。
体が震えるのは、冬の寒さのせいだろうか。
それとも…
「アンタ桐島っていうんだ?」
そんなあたしの気も知らず、呑気に表札の文字を指でなぞる男。
そういえば、一日一緒にいたのにお互いの名前も知らなかったんだ。
大して会話というものをしてないんだけど…それにしても、何だか変な感じ。
「そうだよ。あたしの名前は、桐島泪(キリシマルイ)」
改めて自分の名前を名乗ると、青く澄んだ空を見上げて深く息を吸った。
きっともう、会うこともないんだろうな。
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