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空が、泣いていた。
降り続く雨の中、君は黙って、僕を見下ろしている。
その眼には動揺の色なんて感じられなくて。
地面に紅い華を散らせている僕を、見つめている。
「・・・どう?」
要領を得ない質問を君は、呟くように投げ掛けた。
その声は大粒の雨と一緒に僕へ降りかかる。
少し、間を置いて僕は
「 」
音にならない声を振り絞って答える。
その間も雨は容赦なく、
僕を、君を濡らしていく。
「帰らないの?」
また君は聞いた。
「何処へ?」
少しおかしく思った僕は、彼女をからかうような口調で返す。
すると君は首をほんの、ほんの少し傾げて
「何故聞くの?あなたが一番望んでいた事でしょう?」そして続ける。
「迎えに来てあげたのに」
──あぁ、やっぱり。
そうだったのか。
君は──
降り続く雨の中、
君は僕の傍らへ座り込み、すっかり冷えた僕の左手を握り一言だけ。
「おかえり」
君は、泣いていなかった。
空。
生けとし生ける全ての者達の還る場所。
心地よい眠りの中へ沈む寸前、僕は答えた。
「ただいま」
──雨が、あがっていた。
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