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「ファイヤー!!」
両手を前方に勢いよく突き出し、完成させた呪文を解放させると頭に描いた通りの火の玉が出現した。
火の玉は真っ直ぐに魔物目掛けて飛んでいく。
『ギャャアァーー…!!!』
見事着弾した火の玉は魔物を炎で包み、消滅させた。
「ハァ…もう!一体何体いるんだよッ!」
額に浮かぶ汗を拳で拭い、アルルは叫ぶ。
始めの内は1体、2体と数えていたが二桁を軽く超えた辺りからは数えるのも鬱陶しくなった。
いくらダンジンョンと言ったってこの数は異常だ。
(どこかに原因がある筈…)
神経を研ぎ澄まして魔力が一番高い所を探り当てる。見れば魔物はそこから次々と出現していた。
「ラグナス!あそこ!?」
少し離れた所で同じ様に苦戦している連れに呼び掛ける。
「よし、わかった!!」
早口に呪文を唱え、魔物の群目掛けて放った。
「メガレイブ!!」
数十個の光球がフロア中の魔物を闇に葬った。
「やったか!?」
「待って、気配はまだあるよ」
すると空間の一部が歪み新たな魔物を召喚しようとしていた。
「今だ!───ジュゲム!!」
△▼△▼△▼△▼△
「ふぅ……疲れたぁ」
「まさかあんなに苦戦するとはね。依頼を受けた時から何かあるとは思ってたけど…」
空はもう日が沈みかけていた。
予定よりも1時間程過ぎてしまったようだ。
「でも解決して良かったよ。あいつらも上手くやってるといいけど………っ!」
「ラグナス?」
「ただの掠り傷だよ」
「いいから見せて!」
黄金の胸当てのやや下辺り、影になっている所に生々しい爪痕があった。深くはなさそうだが今だにじわじわと血が滲んでいた。
「動かないで、今ヒーリングかけるから」
「でももう宿屋に戻るだけだし…」
「化膿したらどうするの!?いいからジッとしてて」
言うとラグナスが止めるのも聞かず詠唱を始めてしまった。
全く頑固だな、と思っているとアルルの手を包む暖かな輝きが心地よく傷を癒していく。
元々浅い傷だったのであっさりと塞がった。
「ありがとう、アルル。行こうか」
「う、うん!」
アルルは向けられた優しい笑みに頬を赤く染めて、それはこの真っ赤な夕日の所為だと言い聞かせた。
ちくり。
胸の奥底で、痛みが走る
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