十四歳...

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   夏休みになるまで、美幸は駅前に出来た塾のことなど、まったく眼中になかった。  勉強なんか、学校だけでたくさん……  授業について行けないわけではない。宿題をする以外に、これといって自室の机に向かうこともない。わざわざ、塾などに通って、時間を削られることを、もったいないとしか思っていなかった。  今しか出来ないことをしないと損……  美幸にとって、勉強など、後回しで構わないことだった。それよりも、憧れていたバイオリンを練習し、大好きなピアノを弾き、友達とわいわいお喋りする方が、よほど価値のあることだった。  美幸の両親も、その考えに何ら異を唱えない。『他人に迷惑をかけず』、『やり始めたことは最後までやり抜け』ば良いからと、常々話して聞かせるだけだった。 「お前ぇの人生じゃけぇ、お前ぇが後悔せんごと生きりゃええ。それが親孝行じゃけぇのぅ」  美幸の父親の口癖だった。 「そうよ。あんたが一生懸命やるなら、お金は何とでもなるけぇ……。いざとなったら、お父さんのビールとタバコを減らせばえぇんやし」  母親の言葉に、ブツブツ言いながらも、一向に酒もタバコも止める気配のない父親。  週に一度しか帰って来ない父親と、三人で囲む夕食を、美幸は楽しみにしていた。学校の友達が、 「お父さんって、臭いし、キショクワルイ……」 と、言っているのが不思議でもあった。  
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