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「アホか……」
危うくそう言いそうになった聡志は、すんでのところで、言葉を飲み込んだ。楽しいとは言えぬ夕食の席を、近々オープンする塾のパンフレットがさらに汚す。
「アンタも、馬鹿みたいにバレーに狂ってないで、少しは勉強したらどう?」
「バレーなんかやってもゼニになりゃせん。ちったぁ(少しは)真面目に勉強して、将来ワシらを楽させること考えんか」
この両親に逆らうことを、聡志はとうの昔に諦めている。彼がどうあがいても、パンフレットがそこにある以上、中学二年になれば、何の意味もない進学塾へ行かねばならない。それは、既に決定されていることなのだ。
「行かしてもらうんなら、ちゃんとお父さんにお願いしなさい」
聡志には、塾へなど行かずとも、普通科の高校に入れることが分かっている。バレーに打ち込むことに対して、両親から文句を言われぬよう、彼は彼なりに考え、勉強もしていた。ずば抜けはしないまでも、両親に押し込まれた隣の市の私立中学校で、成績は上の方だった。
ただ、向上心溢れる彼の両親が、納得できる成績ではなかっただけ。
またか……
聡志が従わなければ、従うまで、酔っ払った父親の演説が続くまでのこと。
「よろしくお願いします」
父親に下げられた頭の中は、感謝するのでも張り切るのでもなく、ただ冷めて諦め切っていた。
頭下げときゃいいんだろ……
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