17人が本棚に入れています
本棚に追加
不意に、アゲハが僕に心配そうな声をかけてきた。
その顔は、少し曇っている。
……黙ったままなのが心配だったのか。
僕はポン、とアゲハの頭に、麦わら帽子の上から手を乗せる。
「なんでもないよ。ただ、ちょっと暑くてぼーっとしてただけさ」
僕が微笑みながら言うと安心したのか、アゲハはパッと笑顔になった。
そしておもむろにポケットからピンクのハンカチを取り出すと、アゲハがあせふいてあげる、と言った。
僕が少しかがんでやると、アゲハは嬉しそうに手を伸ばし、僕の顔をそのハンカチでぬぐう。
「……」
僕はまぶたを閉じる。
……こうしていると、母さんを思い出す。
母さんはアゲハを産んですぐに死んでしまった。
元々体の弱かった母さんは僕を産んだ後、医者から二人目は無理だと言われたらしい。
二人目を産むときは、死ぬ時だと。
だけど七年前、母さんは自分の命よりもアゲハの命を選んだ。
もちろん、僕や父さんを含める周りは反対した。何度も何度も説得した。
今ある家族と自分の命を大切にしろ、という伯父さんの言葉に、母さんはいつものように微笑みながら言った。
最初のコメントを投稿しよう!