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『この子はもう、私達の家族なの』と。
皆、説得を止めた。
だって、その時の母さんの顔はとても穏やかで、喜色に満ちていたんだ。
「はい。おにいちゃん、終わったよ」
言われて目を開ける。
そこにはニコニコと笑っているアゲハがいた。
僕はまたポン、とアゲハの頭に手を乗せて、ありがとう、と言った。
アゲハはよく母さんに似ている。
奥二重に真っ黒な瞳とか、少し色素の薄い巻毛なんかもそうだけど、いつもニコニコと日溜まりのような笑みを浮かべているのは、まったく母さんと同じだ。
―――ポツリ―――。
「ん……?」
雨……?
素肌の出ている腕に何か冷たい物を感じ空を見上げると、さっきまで必死に熱と光を放っていた太陽は分厚い雲に隠されていた。
気付けば、辺りも薄暗くなっている。
「……一雨、来るかな」
「あめふるの?」
「うん、降りそうだ。……どこか雨宿りできそうな所を探そう」
僕はアゲハの手を取って歩き出す。
たしか、もう少し行けばバス停に出たはずだ。
そこで父さんに電話しよう。
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