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雲が多い、そんな日は、誰もがため息をつきたくなると、天使は思った。 「…あ」 目の前に立つ黒髪の長身は、悪魔。 金髪の青い目の天使は、そんなこと、ずっと前から知っていた。 「…どうしたの?」 肌寒い風が静かに吹く。人の少ない遊具が少しだけある公園で、天使と悪魔は対峙する。いつの間に居たのか、黒い艶のある羽を持つ悪魔は、白い羽を見ながら目を細める。 「…下界の人間を幸せにするお前と、」 呟くように、確認するように。 「不幸せにする、オレ」 天使は無意識に目を伏せ、冷え切った乾いた土を見た。 栓をまだ止めていない噴水が、曇天を映している。ゆらゆら揺れる水面に、枯れた葉が身を委ねる。 「―でも…」 不意に天使が顔を上げ、細い金髪がさらりと揺れた。 「それを決めたのは、ボクたちじゃない…」 確信する。 「君は、悪くない…。ボクも、悪くない…」 「悪いのは―…」そう言いかけて、言葉にしてはならないと、慌てて口をつむぐ。 それを眺めていた悪魔が、息を吐いて目を閉じた。 目を開け、目の前の天使を睨む。 「結局、何が言いたい?」 天使も、困ったような、悲しそうな目で悪魔を見る。 「悪い者は、誰一人として居ない」 翼が、羽が、静かに揺れ、空気が振動する。 「死んでいい者など、誰一人として居ない」 一瞬、悪魔の目が哀しみを帯びたと、天使は錯覚し、しかしそんなことはないと思い直す。 「だから、オレもお前も、何もしない」 出来ない、その方が合っていると、悪魔は少しだけ思った。 「だから」 悪魔が、天使に歩み寄り、細いその首元に、手をかざす。 「…オレは、お前が嫌いだ」 長く黒い爪は、天使の首筋に一筋の傷をつくる。当たり前のように赤い血が出て、当たり前のように血が流れ白い服に染み込む。 天使が悪魔を見て、はにかんだ。 「…でも、ボクは君のこと、嫌いじゃないけど」 最低限赦される言葉を、悪魔に向ける。 瞳は動かない。悪魔は静かに手を下ろし、天使に背を向ける。 開きかけた口は、少ししてからすぐ閉ざされ、言葉を発することはなかった。真っ黒な目は、どこまでも深く、深く…。 「はぁ…」 哀しい目を伏せ、目を閉じ、悲しい目を開く。 青い目は、好きだった。 昔の、あの頃が蘇る。 まだ、幼いあの頃、何も知らず、過ごしていた頃。 あの頃の方が素直だったと、苦笑する。
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