0人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
「お母さん、雪が降ってるよ!」
一人の少女が、歓声にも似た声で、隣の母親に叫んだ。
「今は10月よ?雪が降るにはまだ早いわ」
少女に微笑みかけた母親は優しい口調で言った。
愛する娘の手をとり、母親は家路を辿る。
「でも、でもほら!」
興奮しきった様子の少女が、母親に手を差し出した。それを見た母親が、
「ダメよ!汚いでしょ」
慌てて少女の手からそれをはたいた。
冷たい道に、白い羽がひらりと舞い落ちる。
「…汚いなんて、酷いなぁ」
呟く声は、男とも女ともとれる、柔和なものだった。
「久々に来てみたら、この挨拶」
言って階段から腰を上げる。
真っ白な服を着たそれは、まるで天使を思わせた。
「ま、別にいいケドね」
やわらかな金髪が、ふわりと揺れる。
笑った顔は、とても綺麗なものだった。
家に着いた少女は、まず夕飯の用意を手伝い、それから風呂に入る。母親と二人暮らしの少女は、夕飯も母親と二人で食べる。洗いものをした少女は、歯を磨いて自分の部屋へ向かう。
一人になった少女は、窓を開けて、窓辺にあるろうそくに火をともした。
少女はひざまづき、手を組み目を閉じる。祈りを捧げる少女の様は、美しかった。
ゆらゆら揺れる、ろうそくの炎。
少女は、無意識に呟く。
「…どうか、お父さんが早く帰ってきますように…」
その言葉は、窓から入る夜風に掻き消される。
故に、炎もともに消える。
少女は慌ててマッチを擦り、炎をともした。
「…?」
少女が、ろうそくの傍にあったそれを、手にとる。
少女の顔は、喜びの一色に染まった。
そして再び窓辺にひざまづき、祈りの言葉を口にする。
「ありがとう、神様。あなたに幸せがあらん事を」
そして少女は眠りに就く。
枕もとには、白い羽が置いてあった。
「…けなげな少女だね」
夜に溶け込んだその声は、少しだけ哀れみを含んでいた。
「もう、わかっているはずなのに…」
微笑んだ顔は、綺麗だが諦めがあった。
「せめて、君に幸せがあらん事を」
そう言って、屋根から立ち上がり、蒼い月を背景に祈りを捧げた。
その様は、まるで、
まるで少女を慈しむ天使のようだった。
背中の白い羽が、一枚、ひらりと抜け落ちた。
天使はそれに気付かない。
最初のコメントを投稿しよう!