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「お母さん、雪が降ってるよ!」 一人の少女が、歓声にも似た声で、隣の母親に叫んだ。 「今は10月よ?雪が降るにはまだ早いわ」 少女に微笑みかけた母親は優しい口調で言った。 愛する娘の手をとり、母親は家路を辿る。 「でも、でもほら!」 興奮しきった様子の少女が、母親に手を差し出した。それを見た母親が、 「ダメよ!汚いでしょ」 慌てて少女の手からそれをはたいた。 冷たい道に、白い羽がひらりと舞い落ちる。 「…汚いなんて、酷いなぁ」 呟く声は、男とも女ともとれる、柔和なものだった。 「久々に来てみたら、この挨拶」 言って階段から腰を上げる。 真っ白な服を着たそれは、まるで天使を思わせた。 「ま、別にいいケドね」 やわらかな金髪が、ふわりと揺れる。 笑った顔は、とても綺麗なものだった。 家に着いた少女は、まず夕飯の用意を手伝い、それから風呂に入る。母親と二人暮らしの少女は、夕飯も母親と二人で食べる。洗いものをした少女は、歯を磨いて自分の部屋へ向かう。 一人になった少女は、窓を開けて、窓辺にあるろうそくに火をともした。 少女はひざまづき、手を組み目を閉じる。祈りを捧げる少女の様は、美しかった。 ゆらゆら揺れる、ろうそくの炎。 少女は、無意識に呟く。 「…どうか、お父さんが早く帰ってきますように…」 その言葉は、窓から入る夜風に掻き消される。 故に、炎もともに消える。 少女は慌ててマッチを擦り、炎をともした。 「…?」 少女が、ろうそくの傍にあったそれを、手にとる。 少女の顔は、喜びの一色に染まった。 そして再び窓辺にひざまづき、祈りの言葉を口にする。 「ありがとう、神様。あなたに幸せがあらん事を」 そして少女は眠りに就く。 枕もとには、白い羽が置いてあった。 「…けなげな少女だね」 夜に溶け込んだその声は、少しだけ哀れみを含んでいた。 「もう、わかっているはずなのに…」 微笑んだ顔は、綺麗だが諦めがあった。 「せめて、君に幸せがあらん事を」 そう言って、屋根から立ち上がり、蒼い月を背景に祈りを捧げた。 その様は、まるで、 まるで少女を慈しむ天使のようだった。 背中の白い羽が、一枚、ひらりと抜け落ちた。 天使はそれに気付かない。
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