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天使が驚くのも、無理はない。
それはまるで、合わせ鏡で正反対の自分を映しているようだった。
天使の羽は、純白で、どこまでも白くて、美しかった。
ただ同じくらい、目の前に立つ黒い羽も、美しかった。
天使が困ったような、戸惑ったような顔で悪魔を見つめる。
「―久しぶりだね」
金髪の美しい顔立ちをした、男とも女ともとれる声の天使は、少しはにかんで言った。
目の前に歩み寄ってきた黒い羽の持ち主を、困った顔で見た。
真っ黒な服を着たそれは、まるで悪魔を思わせた。
目に掛かるくらいの前髪と、耳に少し掛かるくらいの黒髪は、男を思わせた。
目付きは鋭く、それでいて大きな真っ黒な目だった。
「久しぶりだな」
口を開いて皮肉げに言葉を発する。
声も男を思わせる。
「その戸惑った顔、いつ見てもイラつくな」
顔こそ笑っているものの、口調からしてかなり嫌味を言っている。
天使は、真っ黒な悪魔を目の前に、ただ微笑むだけだった。
「そうかな」
会話は続かず、天使は金髪に目を隠す。
「…あれ、」
不意に悪魔が言って、天使は不思議そうに視線を上げる。
悪魔は後ろを見る形で、先程自分のいた道を見ていた。
「死んだな、即死だ」
何を指しているか、天使は即座に理解する。
「お前を見る目で、オレを見た」
女の子の周りには、大勢の人が集まり、じきに救急車が赤いランプを点してやって来た。
「最期に見たのが、お前じゃなくオレで、残念だったな」
すれ違い様に言われた言葉が、なぜかとても重くて、天使は言葉を失う。
しばらくして振り向くと、天使の青い目には黒い羽が一枚、宙に舞っているのが見えた。
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