黒い羽

2/2

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
天使が驚くのも、無理はない。 それはまるで、合わせ鏡で正反対の自分を映しているようだった。 天使の羽は、純白で、どこまでも白くて、美しかった。 ただ同じくらい、目の前に立つ黒い羽も、美しかった。 天使が困ったような、戸惑ったような顔で悪魔を見つめる。 「―久しぶりだね」 金髪の美しい顔立ちをした、男とも女ともとれる声の天使は、少しはにかんで言った。 目の前に歩み寄ってきた黒い羽の持ち主を、困った顔で見た。 真っ黒な服を着たそれは、まるで悪魔を思わせた。 目に掛かるくらいの前髪と、耳に少し掛かるくらいの黒髪は、男を思わせた。 目付きは鋭く、それでいて大きな真っ黒な目だった。 「久しぶりだな」 口を開いて皮肉げに言葉を発する。 声も男を思わせる。 「その戸惑った顔、いつ見てもイラつくな」 顔こそ笑っているものの、口調からしてかなり嫌味を言っている。 天使は、真っ黒な悪魔を目の前に、ただ微笑むだけだった。 「そうかな」 会話は続かず、天使は金髪に目を隠す。 「…あれ、」 不意に悪魔が言って、天使は不思議そうに視線を上げる。 悪魔は後ろを見る形で、先程自分のいた道を見ていた。 「死んだな、即死だ」 何を指しているか、天使は即座に理解する。 「お前を見る目で、オレを見た」 女の子の周りには、大勢の人が集まり、じきに救急車が赤いランプを点してやって来た。 「最期に見たのが、お前じゃなくオレで、残念だったな」 すれ違い様に言われた言葉が、なぜかとても重くて、天使は言葉を失う。 しばらくして振り向くと、天使の青い目には黒い羽が一枚、宙に舞っているのが見えた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加