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宮中に連れられたイシスとネフティスは絶句した。
以前のような華やぎとのどかさは無く、唯一残る静かさは神聖なものではなく、恐怖によるものに変わっている様子が明らかだった。
光は絶え、闇が宮中を包んでいた。
「…どこまで連れて行くのです…」
「そう焦らずに、姉上…今の貴女方に相応しき場所ですよ。」
さしずめ牢獄か、奴隷部屋か…
イシスとネフティスは既に覚悟を決めていた。
暗い回廊を歩いて行くと、案の定奴隷部屋に辿り着いた。小さい空洞型の窓の中を覗いて見るも、中は暗くて何も伺えなかった。
「子育ての環境も考えてほしいわね…」
「おや、【豊穣】と【誕生】から生まれし子供が環境などに左右されるようには見受けられませんがね?」
セトは卑しく笑う。
「中はこのように。まぁ狭く光も当りづらいような所ではありますが、衣食住が満足であれば問題は無いでしょう…?くくく…」
「セト兄様…貴方という人は…!」
「【人】じゃねえよ、【神】だ。それもてめぇのように女奴隷まがいのような神じゃあねえ。弁えやがれ。」
「…っ…!」
「あの麦の束は何なの。」
イシスが遮るように問う。
「あぁ、あれですね。そりゃあ、働かざる者食うべからず、貴女方にも仕事をしてもらわなければ食事など出せませんからねえ。足りない道具があれば言って下さいね。道具だけなら貸しますよ…ふふふ…」
やはり、そういう事か。
彼が理由無くただで宮中に住まわせる訳などない。ここで稼がせて最低限の食事を出すつもりなのだ。そうイシスは想定した。
セトはもうここまで歪んでしまった。もうあの頃のセトに戻す事は出来ないだろう…
今まで静かに眠っていたホルスがぐずり出す。
「…兄上も律義な方だな…忘れ形見だけはしっかり残して行きやがる。あの犬っコロも相当オシリスに似ていたが、こいつが一番似ている…非常に腹が立つ…!!」
「この子に手を出してごらんなさい…私は貴方をどうするか分からないわよ…!!」
「貴女こそ覚えて置く事だ、そのガキに俺を殺させようなどとしたならば、姉上とて容赦はしねえからな…!!」
「…私は貴方ではないわ…」
私は貴方ではないから、貴方を殺そうなどとは考えない。
貴方は私ではないから、私を殺そうとするかもしれない。
私は死んでも構わない。
だけど、私の身近にいる存在に手を出すと言うのなら、私は貴方を赦さないだろう。
きっと…
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