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ここは、薄暗い城の一室。
床も壁も硬い岩でできており、灯かりはロウソクだけという、酷く無機質な部屋。
おそらく城の場所自体が寂れた場所にあるのであろう、物音すら聞こえない。
そこに一人座り、カタカタと震えながら、固く大きい茶色の物体を抱きしめる女。
女の髪は鮮やかな緑色で、血まみれの白いドレスを纏っていた。
彼女の名前はコクル・ドラグネール。
「助け…て…」
懇願するように呟くが、その言葉を聞く者はどこにもいない…。
ガチャリと扉が開き、コクルはそこに目をやる。
扉の前に立つ男は妖しげに微笑み、コクルの頬を撫でた。
「お目覚めか花嫁?」
「……よくも、私の友達を…家族を…。私を、今すぐに夫の前に…返しなさい」
「くくっ…私が君の夫だよ花嫁。ああ、自己紹介がまだだったな。私の名前はダークロウ・キュアネール」
「ふ……ふざけないで!!」
コクルはつい数時間前、北の地にて式を上げたばかりの花嫁だ。
式を終え、これから夫のヴルム・ドラグネールと幸せになるはずであった。
しかし式を終えた後、コクルはこの男に誘拐された。
しかも、事もあろうに男はつい先程婚礼を終えたばかりのコクルに婚約するよう求めてきた。
「ふざけてなどないさ。国一番の歌姫である君のために、最高の式を。最高のステージまで用意したのだからな」
「私の夫はヴルム・ドラグネールだけ!式も既に挙げた、お前と結婚などできぬ!私を夫の元に返しなさい人殺し!」
「…くくくっ………」
男は低く笑いながらコクルの目を見る。
その目は酷く冷たく、コクルは恐怖した。
冷たいのは目だけではないのだろう。
式に参加した者達を笑いながら殺していった男だ、残忍な性格だとわかる。
「足が震えているな花嫁」
「……っ…?!」
男の言葉に焦り、思わず抱いていた茶色い固まりを落とす。
慌て拾い抱きなおすが、足に力が入らずその場で蹲った。
「あ…あなたは何がしたいのです?!なぜあなた…吸血鬼が、ジャ族の私に求婚を?!」
そう、男の正体は吸血鬼。
そしてコクルは、人狼を信仰する部族、ジャ族の者。
男が、吸血鬼を信仰するバル族の女に求婚するのなら納得はいく。
しかし男はなぜか、吸血鬼とは敵対する人狼を信仰する女を拐った。
「くくっ……。悪いが、私達闇に属する魔奴には愛という感情はないのでね。君を愛して求婚したのではない……とは言っておこう」
「く……っ…」
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