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「あたしたちが逃げ出して、半年くらいかな…母さんが死んだっていう知らせが入って、それから。ここが胎内みたいに感じられて、なんだか安心した」
彼女はライターをテーブルに置くと、床に耳を当て、時折他の部屋から聞こえるベースの音にうっとりと目を閉じた。
「でも…大きくなりはじめたこの子が、蹴るの、出たい出たいって」
彼女は目をつぶったまま、自分の髪の毛を引っ張ってみせたが、力がうまく入らないのか一本も抜け落ちなかった。
「あたしも出たい」
引き留める理由なんて、いくら探したって見つからないだろう。ぼくは確信した。
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